marine joy みなとから“ぶらり”旅
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ルイ・イカール & ガレ・ドーム 石狩美術館 [アクセス]地下鉄麻生駅より車で約30分
石狩の原野にアートの風
石狩湾新港へと車を走らせると、原野をぬけて臨港道路につきあたる場所に、周辺と趣を異にするレンガ造りの瀟洒な建物がそびえる。昨年6月にオープンした「石狩美術館」だ。
同館に所蔵されている作品は、フランスのアール・デコの華といわれたルイ・イカール(1888〜1950)の銅版画600点以上(展示は250点あまり)。また、ガラス工芸品も充実しており、アール・ヌーヴォーを代表するエミール・ガレ(1846〜1904)工房のランプ類作品ほか100点以上、フランス東部でガラス工場を経営していたドーム兄弟(1853〜1909、1864〜1930)の作品68点、そしてガラスと日本の伝統美の融合をコンセプトに世界中に日本文化を発信する黒木国昭氏の作品55点ほか253点のコレクションを誇る。
ガラス工芸品の展示は、朝昼晩の光の変化を表す「ウェーブ照明」により、作品が放つさまざまな表情を演出しながら、アートと自然との共生を表現している。
また、館内の中央はふきぬけのアトリウムになっており、1階では上階の回廊に展示されたガラス工芸品に360度囲まれ、造形と色彩、透過光のアートを堪能できる。
美術館にはレストラン棟が併設されており、24の個室で美しい和食器に盛り付けられた本格フレンチが味わえる。小窓の外に、ベルトコンベアに乗ったアート作品が流れてくるなど、ユニークな演出がなされている。
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小樽市内のガラス工芸店では、吹きガラスやアクセサリーほか、さまざまな体験製作を楽しむことができる
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グラスアートや銅版画など、約500点以上の展示を誇る石狩美術館
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レストラン棟「ラ・シェネガ」のフレンチ・メニュー
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観光都市・小樽の街づくり
石狩湾新港の西地区がまたがる小樽市は、全国有数の観光名所。小樽港そばの運河界隈には倉庫を利用した商業施設が建ち並び、市街にもレトロな建造物が散見できる。そして、歴史あるガラス工芸品も人気の的だ。
19世紀後半、小樽では街灯の石油ランプやニシン漁に使うガラス製の浮き玉などが生産され、これがガラス工芸技術の流れのはじまりとなった。後者はいまでも道内各地の漁村や浜などで見かけられる。
やがて時代は下り、石油ランプは電気へ、ガラス製浮き玉はプラスチック製のブイへ変わりつつあるが、その技術は実用品から工芸品へとシフトされた。斬新で美しいデザインの小樽のガラス工芸品は次第に観光客に浸透していった。その陰には、地元の老舗ガラス店による有望な若手職人の誘致、観光客用ギャラリーや美術館の開設、石造倉庫を再活用した店づくりで街の歴史的景観と連携するなど、さまざまな努力があった。現在の小樽のガラス工芸品の高名は、こうした取り組みの賜物といえる。近年では、本州などから小樽へ移ってくるガラス製造会社もあり、「小樽切子」を新しく考案して製造している。
北海道におけるガラス製品の起源をさらにさかのぼると、アイヌ民族の首飾りへとたどり着く。小樽市と石狩市、隣接するふたつの街でグラス・アートが観光の呼び水となることに、歴史的な必然が見えるようだ。
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19世紀末の代表的アーティスト、エミール・ガレの作品
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ロマンチックな小樽の街並み
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小樽の老舗ガラス工芸店「北一硝子」
めしあがれ
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石狩鍋
石狩を代表する郷土料理。ぶつ切りの鮭と野菜を、昆布でダシを取った味噌仕立ての汁で煮込む。汁に酒粕を加えたり、バターや牛乳を隠し味に使うなど、アレンジされたバリエーションもある。
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八角
石狩湾で捕れる小樽を代表する高級魚。刺身は、ヒラメのエンガワのような脂と歯ごたえ。背から開いて味噌を塗って焼く「軍艦焼き」などの食べ方がある。