プロムナード 人と、海と、技術の出会い

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船舶をロープやワイヤーで安全に停泊させる施設が係留施設。
旅客の乗降や貨物を積み降ろすための役割を果たす。
船舶の安全な停泊や接岸、効率的な荷役作業を担う港湾の中で防波堤と並ぶ重要な施設だ。
ひと言で係留施設といっても、構造や建設場所によって分類は異なる。
ここでは陸岸に接して設けられる接岸施設である、「岸壁」にスポットをあてた。

図-1 重力式岸壁

図-2 セル式岸壁

図-3 矢板式岸壁

図-4 棚式岸壁

船種や貨物で決まる規模と構造

 岸壁は、係留施設を代表する施設の1つ。岸壁を含め、船が停泊する場所をバースと呼ぶが、停泊地全体の呼称としてもバースという用語が使われる。同じような意味合いに埠頭(ワーフ)があるが、こちらは船が接岸し、旅客の乗降や貨物の積み下ろし・保管などをする場所の総称。埠頭の機能の一部を果すのが接岸施設、すなわち岸壁となる。

 岸壁の規模は、それを利用する船舶に応じて水深、長さが決定される。なかでも重要なのが水深で、一般的には船舶の喫水に10%の余裕をもたせた深さとしている。水深4.5m以上を岸壁といい、それ以下は物揚場として区別する。船型と岸壁の長さ、水深の関係は、船の種類により標準的な関係値も整理されており、これらをもとにどんな大きさの岸壁を、どんな構造で建設するかが決められるわけである。

 岸壁の構造は、大きく「重力型」「矢板型」に分けられる。重力型は重力式とセル式、矢板型は矢板式と棚式に細分される。

 重力式は、壁体の自重と摩擦力で外力に耐える構造である。ケーソンやL型ブロックなどで垂直壁をつくり、背後の土圧に耐えるように設計する。壁状構造であり、内部には中詰砂を入れ、裏込石も使われる。ケーソンやブロックではなく、場所打ちコンクリートとする場合もある。

 セル式は、鋼矢板で円筒形やたいこ型の枠(セル)をつくり、打設し、その中に中詰砂などを入れて構築する。セルと中詰が一体になって外力に耐える構造で、鋼矢板の代わりに鋼板を使うこともある。

 矢板式は、所定の深さに矢板を打ち込んで壁面をつくり、上部にタイ材を設けて緊張、アンカーブロックや控え工と連結して構築する。やはりわが国で広く採用されている構造の1つ。水深が深い場合には、鋼管矢板を採用する場合もある。

 棚式は、タイ材の代わりに、上部に棚を設置し、これを多くの杭で支持する構造方式。棚の荷重を杭が支え、棚の下の土圧は、矢板で負担させる設計とする。

基本は4方式、それぞれに有利性

4つの方式の一般的特徴を整理する。

1. 重力式

(1) 施工時の安定性に優れている。
(2) 水深の浅い場所で経済的である。
(3) 背後が土砂で満たされ堅固、船舶の接岸時の衝撃や波力に強い。
(4) 耐用年数が長く、地盤が良い場所に適する。

2. セル式
(1) セルを大きくすることで、大型岸壁も建設できる。
(2) 軟弱地盤での建設に有利である。
(3) 鋼板を溶接で一体化してセルを製作し、現場に搬入するので、施工が合理化する(鋼板セル)

3. 矢板式

(1) 施工が簡単で短工期である。
(2) 低コストで建設できる。
(3) 汎用性が高く適用範囲が広い。

4. 棚式

(1) 杭と棚で、矢板にかかる土圧を減少できる。
(2) 地盤が悪く、矢板式で施工できない場所にも適用できる。
  建設地の条件を考慮した上で、最も適した構造が採用される。

課題を技術で補い克服する

 重力式の場合の重要な要素となるのは、地盤の状況や水深である。根入れのない構造のため、軟弱地盤の場合は地盤を改良して建設する。また水深があると壁体が大きくなるので、浮力を利用して運搬できるケーソンを採用することが多い。

 セル式や矢板式では、防食が技術的な面での課題になる。これらの方式は維持補修をしないと比較的耐用年数が短いといわれているが、ストック型の社会といわれる今日、寿命を延ばすための技術開発も進んできた。コンクリートで被覆したり、電気防食や被覆材を施すといった方法が開発されている。

 棚式は、低コスト化と施工の合理化に加えて、重い上部工の影響を克服し、耐震性を高めることが課題だ。棚上部は、通常、土砂で埋めるのが普通であるが、棚部重量とこれにかかる地震力を軽減するため、箱型構造とし中空にするといった解決策がある。

 4つの方式それぞれに特徴があり、その特徴を生かすためにも、課題となる点は徹底的に研究されたうえで解決策が模索される。こうして確実を期したうえで初めて、わが国の岸壁はつくられているのである。

時代に合わせて進化を続ける

 近年、流通形態の変化にあわせ、港湾施設も大きく変化した。とくにコンテナの増加は、これを保管する広大なコンテナヤードやコンテナクレーンの必要性を高めている。これに伴い岸壁も変化し、とくに大水深化への対応は、港湾の物流機能を充実させ、わが国の港湾の国際的な競争力を高めるためにも重要な課題といえる。

 その一方で、耐震性の向上といった構造・技術的な点もクローズアップされてきた。阪神大震災では港湾部における被害は最小限に抑えられたが、液状化や側方流動により、港湾施設が甚大な被害を受けたことは記憶に新しい。港湾機能の維持だけでなく、災害救援の輸送拠点としての期待も大きい。こうした状況を踏まえ、耐震強化岸壁も整備されつつある。港と海の接点である岸壁は、こうした時代の変革にあわせ進化を続けている。