プロムナード 人と、海と、技術の出会い
岸壁や桟橋と比較すると、一般的に馴染みが少ないが、「ドルフィン」と「デタッチド・ピア」も港での荷役作業に重要な役割を担っている施設である。
特に船舶の大型化や撤荷貨物の取扱量の増大がその重要性を高めている昨今では、欠くことができない港湾施設である。
プロムナード「港湾施設の基礎」4回目は、これらの係留施設にスポットをあてる。
図−1 ドルフィン概念図
図−2 デタッチド・ピア概念図
図−3 係船浮標概念図(沈錘錨鎖型)
ドルフィンは専用船向けの沖がかり施設
船舶が港で停泊する方法には、大きく分けて2つの方法がある。錨を使う方法と係留施設に停泊する方法である。係留施設も2タイプに分類され、陸岸に接して設けられるタイプを「接岸施設」、沖合いに設置するタイプを「沖がかり施設」と呼んでいる。これまで紹介してきた岸壁や桟橋は、接岸施設に属する。
ドルフィンは、沖がかり施設を代表する施設の1つ。荷役用エプロンを必要としないタンカーなどの専用船の係留施設として建設されてきた。明確な定義はないが、シーバースとも呼ばれ、防波堤で遮蔽されていない海面に設けられるケースが多い。
ドルフィンは、陸岸から離れた水面に設けられる複数の独立した構造物であり、鋼管杭を打ち込んだり、ケーソンを設置したりして建設するのが基本的な方式である。水深がある場所では浚渫や埋立を必要としないため低廉な工費で短期間で施工できる。
船舶が接舷するためのブレスティング・ドルフィン、係留索をとるムアリング・ドルフィン、荷役用プラットフォームが1組になって建設されるのが一般的だ。荷役用プラットフォーム(作業用ドルフィン)を中心に、その外側にブレスティング・ドルフィン、さらに外側にムアリング・ドルフィンが直線に近い形で配置される。また外側と内側のムアリング・ドルフィンというように、複数のドルフィンがつくられ、全体として1つの荷役施設を形成している。
沖合に建設するため、風速・潮流・波浪・潮位といった自然条件の影響を受けやすく、これらの条件をもとに船舶の規模を考慮して施設の配置や構造が決定される。
貨物用に荷役施設をもつデタッチド・ピア
デタッチド・ピアは、構造的には桟橋式に分類される。陸岸から離れた杭式の構造物の上に、クレーンなどの荷役機械の軌条を設けた係留施設であるのが最大の特徴だ。
荷役の効率化、建設の低コスト化などを目的に建設され、貨物の取扱量の増加や船舶の大型化がこうした施設の建設に拍車をかけた。一言でいうと桟橋の床部を省略した構造であり、「島埠頭」「平行桟橋」とも呼ばれる。
軌条は、片側がデタッチド・ピアの上に、さらにもう一方を陸上の土留部に置かれる場合と、2つともデタッチド・ピアの上に置かれる場合がある。いずれにしても軌条走行式のクレーンが設置されるので、変位の少ない平坦な構造が要求される施設だ。
デタッチド・ピアの特徴には、外側に大型船、内側には二次輸送をする小型船を係留して船から船への荷役が可能で、中継拠点として合理的な使い方ができる点もある。したがって、輸入穀物を取り扱う埠頭のように、海外から運んできた貨物を積み替え、さらに国内の別の場所へ輸送する必要がある場合に適した係留施設といえる。
荷役用には、橋形クレーンやアンローダーといった機械が利用される。
橋形クレーンとは、レール上を走行する脚をもった桁に、トロリ(貨物を吊ってクレーン桁上を走行する方式)などを設けたクレーンを指し、コンテナ埠頭でよく見かけられる。一方のアンローダーとは、陸揚げ専用の荷役機械のことで、これらで穀物や石炭などの貨物を効率よく荷役するわけである。
漂いながら係留する係船浮標
係留用の浮体(ブイ)と海底に沈設したコンクリートブロックやアンカーを鎖でつなぎ、係船施設として運用する係船浮標も沖がかり施設に位置付けられる。係船浮標は大型船を沖に係留したまま短時間での液体貨物の荷役に適している。船首一点のみで係船浮標に係留する場合は、船体が受ける風、波、潮の力が常に最小になるよう、ブイの周りを自由に回転させることができるため安定した係留が可能だ。ブイはその機能により観測用、標識用としても活用されている。
係船浮標はその構造から沈錘式、錨鎖式、沈錘錨鎖式に分類される。沈錘式は海面の浮体、海底の沈錘、浮体と沈錘をつなぐチェーンやワイヤーの浮体鎖から構成される。沈錘のかわりに係留アンカーを海底に設置し浮体とアンカーを錨鎖で連結したものが錨鎖式である。一般的に用いられる沈錘錨鎖式は上図のように沈錘式、錨鎖式の構造を合わせ持っている。沈錘を重くすると船の振れ回り半径が短くなるので泊地面積に余裕がなくても活用することができる。
ドルフィンやデタッチド・ピア、係船浮標は、沖合いで貨物を扱うための沖がかり施設であるため、同じ係留施設といっても岸壁や桟橋ほど一般の人たちが間近にする機会は少ない。だが海上輸送が貿易の中に大きなウエートを占める日本にとって、これら沖がかり施設は効率的な荷役を可能とし、貨物の取扱量や船舶の大型化に対応するためにも欠かせない港湾施設である。岸壁や桟橋と比較してもその役割は決して小さくない船舶係留施設ということができる。