プロムナード 人と、海と、技術の出会い
浚渫工事において、ポンプ浚渫工法と並ぶのが「グラブ浚渫工法」である。
深さが変化する場所での浚渫に適し、深度による掘削力の変化も少ない。
近年、グラフ浚渫においても、環境保全という視点がますます重要になってきた。
浚渫の2回目は、このグラブ浚渫工法を中心に、環境保全型の浚渫工法を取り上げる。
深さの変化に対応し、大深度が可能なグラブ浚渫
グラブ浚渫工法とは、グラブバケットで水底に堆積した土砂を掘削する工法をいう。作業するグラブ浚渫船には、パワーショベルのように360度旋回可能なウインチ機構をもつ揚重機が装備され、浚渫用のグラブバケットを昇降させて水底の土砂を浚渫する。
基本的には起重機船の巻き上げ機と同じだが、グラブバケットの開閉と巻き上げ、支持のためのドラムが2カ所以上必要だ。水底にたまった土砂を掘削し、水深を確保する維持浚渫工事を中心に活躍してきた。
次のような特徴がある。
1)航路の浚渫や防波堤の基礎の床掘、深さの変化が多い場所の浚渫に適している。
2)グラブバケットを吊るロープの長さで深度に対応するので、大深度浚渫が可能。深度による掘削力が変わらない。
3)グラブバケットの揚重比(バケット容量とバケット重量の比率)を大きくすることで、硬土盤の浚渫も可能である。
グラブ浚渫船は、ポンプ浚渫船と同じようにほとんどが非自航式だ。起重機船、杭打船と兼用しているものが多い。自航式は泥漕を備え埋立地や処分地まで自分で動き排泥する。
浚渫作業は、操船ウインチで船体の前と斜め後方にワイヤーを張り、船体を係留移動して行うのが一般的だ。ただ船の大型化によって浚渫作業の占有範囲が広がってくる課題もある。ワイヤー方式は広い場所での作業に適した方式といえる。
狭い場所や航行船舶が多い場所での浚渫には、ポンプ浚渫船と同じようにスパッドで船体を固定し、アンカーを使わずに浚渫できる船が登場してきた。こうしたスパッド方式の浚渫だと、浚渫時の動揺や傾斜が少なく、他の航行船舶の波浪による動揺、位置の移動などもない。浚渫位置の設定などをワイヤー方式より早く確実にできる方式として増えてきた。
陸の技術を海に応用した浚渫工法も活躍する
浚渫工法はポンプ浚渫やグラブ浚渫が代表的だが、実はこれ以外にもいくつか工法がある。
バケット浚渫工法は、多くのバケットを連結したバケットラインを回転させることで、水底の土砂を掘削・揚土し土運船に積載する工法である。軟質土から硬質土まで幅広い浚渫に適用可能だ。ディッパー式浚渫工法は、硬土盤土質の浚渫に適した工法。ただしわが国での事例は少ない。バックホウ浚渫工法は、油圧ショベル型掘削機を搭載した船で浚渫する工法のことで、掘削機の遠隔操作ができる。他の方式より安価に建造できることから、沖縄を始め全国的に広まってきた。
これらの3工法は、陸上にある荷役・積込・掘削機械を作業船に搭載し、港湾土木工事に応用している点で共通している。工法も陸上での掘削工法とほぼ同じで、土運船と組み合わせて施工する。
「環境保全型浚渫工法」へ技術開発進む
浚渫区域での水質汚濁防止、重金属やダイオキシン類で汚染された底泥の除去、周辺での浚渫土砂の処分地不足問題の解決など、21世紀の浚渫工法は環境保全型であることが不可欠の要素になってきた。環境保全型の浚渫工法への期待は、ポンプ船浚渫工法だけでなく、グラブ浚渫工法などについても同様である。
特に近年は、航路などの維持浚渫や汚染土壌対策としての浚渫など、広い範囲を薄く浚渫する工事への要請が高まってきた。こうした工事に活躍してきたのがグラブ浚渫工法である。グラブ浚渫はこれまでも汚濁防止枠を設置し、その中を浚渫するなど環境に配慮してきたが、より環境保全につなげるために工夫の余地は十分にある。
その1つが必要最小限の厚さだけ浚渫するという技術的アプローチ「薄層浚渫工法」である。従来のグラブバケットだと、開閉構造や波浪の影響などにより、必要以上の厚さを浚渫していた。その結果、水質を汚濁するだけでなく、余分な浚渫土砂の発生を招いていた。これを解消し「広く」「薄く」「均一に」浚渫しようというわけである。
必要以上の浚渫残土は、慢性的な処理場不足にさらに負担をかけることになる。薄層浚渫工法が必要とされる背景には、こうした処理場不足の問題もある。
環境保全型の薄層浚渫では、軟弱な底泥の浚渫に採用される高濃度浚渫工法があった。ところが土の中の障害物が多いと、集泥機に吸い込まれて機械故障が発生し、作業能率が落ちるというように一長一短があった。
今年に入って、こうした課題を一気に解決するグラブ浚渫工法も登場した。従来のグラブバケットでは困難だった水平掘削により、まさに広く薄く均一に必要最少限の土砂を浚渫するなど、先進的な技術が導入されている。従来のグラブバケットでは困難だった薄層浚渫の実現や余剰土砂、汚濁の発生の抑制だけでなく、重金属やダイオキシンで汚染された底泥の効率的な除去も可能にした。こうした能力に加えて、高濃度浚渫船や従来のグラブバケットに比べて、浚渫コストを大幅に削減するなど、コスト縮減の要請にもこたえる工法となっている。
この技術に象徴されるように、環境保全型浚渫工法をめざした技術開発は着実に進みつつあり、新しい技術がどんどん登場してきた。しかしより環境保全に貢献し、効果的に浚渫するためには、単に浚渫の施工技術だけでなくそれ以外の領域へのアプローチも欠かせない。関連する濁りの拡散防止・低減のための汚濁防止対策技術や汚濁のリアルタイムモニタリングシステム、重金属などの処理技術などだ。
重金属などの除去では、浚渫技術と処理技術を組み合わせ、汚染泥の調査から対策まで一貫して行うシステムなどが開発されており、業界全体での取り組みが始まった。これからの周辺技術と融合したトータルな環境保全型浚渫工法の確立に対する期待は大きい。
■環境保全型グラブ浚渫工法
刃先による水平掘削で薄層浚渫を可能にした。必要最小限の土砂を「広く」「薄く」「均一」に浚渫できるので、水質汚濁や余剰土砂の発生などを防ぎ環境保全に大きく貢献する
■従来型のグラブ浚渫工法
これまでのグラブバケットは、開閉構造などの関係でどうしても不陸があり必要以上の厚さを浚渫してしまう一面があった。ただ航路浚渫などを始め従来型への期待はいまも高い
●環境保全型工法 グラブバケット動作
●従来型工法 グラブバケット動作