プロムナード 人と、海と、技術の出会い

プロムナード 人と、海と、技術の出会い

港湾整備に欠かせない巨大な函体、ケーソン。
その威容は10階建てのオフィスビルに匹敵するものもある。
防波堤や護岸はこのケーソンを何百メートルも、時には何キロにもわたって列ねることによって築かれた海中の壁だ。
今回は港湾土木におけるケーソンの構造と製作工程について見ていこう。

プレキャスト化される防波堤築造

 港湾土木では当然のことながら海上での作業が主となるため、気象や海象の影響を強く受ける宿命にある。だからこそ、自然環境の負荷を低減することが工程や構造物の品質を管理する上で重要な課題となる。防波堤や岸壁の建設においても、海上での作業を低減するため、構造物本体のプレキャスト化ともいえるケーソンが採用されることが多い。
 あらかじめ製作されたケーソンを現場に曳航して据付けたあと、中詰、根固、被覆工を施して安定させる一連の工程で実施される。この工法によって1960年代以降、第一線の防波堤が全国で数多く建設されるようになり、1970年代には設計・施工技術がほぼ確立されている。現在では長さ、幅、高さともに30m、総重量16,000tに達する巨大なケーソンが製作されるようになった。
 港湾施設に用いられるケーソンは鉄筋コンクリート製の中空の函体(RCケーソン)で、内部は隔壁によって仕切られている。最近では鋼板とコンクリートの合成構造であるハイブリッドケーソンなども開発されている。ケーソンの長さは長いほど経済的だが、あまりに長大なケーソンは、ジャッキアップ時や本体が設置されるまでに受ける「曲げ」や「ねじれ」などの負荷も大きくなる。また、設置する際に潮流、波浪などの影響を受け、曳航や据付けが困難になることも予測されるので設計の際には十分な検討が必要だ。形状は矩形が一般的だが、現在までに施工現場の海域環境や施工条件に対応した様々なタイプが開発されている。

・直立消波ケーソン
 前面にスリットのある透過壁、内部に遊水室を設けたケーソン。ケーソン自体の消波効果によって発生する反射波をスリットと遊水室で消波する。経済的に消波機能を持たせることができる点も利点だ。透過壁の形状により縦スリットタイプ、横スリットタイプ、多孔壁タイプがある。縦スリットタイプの直立消波ケーソンは現在もっとも標準的なケーソンのひとつといえる。

・曲面スリットケーソン
 通常のケーソンの前面に円弧状の縦スリットがある曲面状の透過壁を設け、その透過壁の背後に1/4円形状の遊水室をもつタイプ。波力の減殺効果があり、直立消波ケーソンより比較的広範囲の周期に対して反射波低減効果が期待できる。

 この他、筒を並べたような二重円筒ケーソン、本体内部に曲斜面壁をもつマルチセルラーケーソンなどがあり、用途や設置場所の条件に配慮して選定される。
 ケーソンの製作は施工する場所によって陸上製作、海上製作に大別される。さらに、陸上製作の場合はドライドックや移動・進水設備を備えた施設で施工する方式や、仮設的に岸壁等で製作したケーソンを起重機船で吊り降ろす方式等がある。また、台船を用いた海上製作の場合も注排水機能をもつ専用船の上で浮遊状態でケーソンを製作するフローティングドック方式、船全体を沈めて着底状態で製作するドルフィンドック方式といったように専用設備や台船によって分類することができる。

●ケーソン製作概要図

ケーソンの製作と様々な施工施設

 一般的なRCケーソンの製作は複数の層に分割して施工される。各層の高さは鉄筋の施工性や、コンクリートの打設時の品質確保など施工環境によって異なるが、一般的には3m以内に設定される。底盤部となる1層目は構造上2層目以上より低く設定し施工される。ケーソンを製作する型枠は1層施工される毎に上方に設置、またはスライドしていく。施工性を考慮して大組み枠が用いられるため、フローティングドックなどの既設クレーンを使用する場合は吊り重量、作業半径を十分に検討しなければならない。
 コンクリートの打設ではコンクリートポンプ車等が用いられる。枠内にまんべんなくコンクリートがいき渡るよう、バイブレーターにより振動を与えながら締固めていく。とくに打継目が弱点とならないように、既に打設したコンクリートのレイタンスや弛んだ骨材の除去、その後の洗浄作業を確実に行い、打設面を水平かつ平滑に仕上げることが大切だ。

・陸上ケーソンヤードでの製作
 ケーソンヤードは受電設備や照明設備はもちろん、ケーソンの土台となる函台やクレーン、進水の際に必要な斜路、ジャッキ、台車などの設備を備えている。またコンクリート製造プラントを併設している場合もある。函台がケーソン底部の型枠として使用され、函台上に側壁となる型枠を建て込んでコンクリートを打設する。函台と型枠はコンクリートの重量に対して十分な強度をもっている必要がある。また、ケーソンと函台との間にルーフィングペーパー等を敷設し、完全に絶縁しておかなければならない。

・ドライドックでの製作
 ドライドックとは、地盤を水面下所定の深さまで掘り下げ、海側前面に設けられたゲートで海水を遮断、ドック内をドライにしてケーソンを製作するための施設だ。造船ドック同様の構造をもっている。ケーソンが完成するとドック内を海水で満たした後ゲートを開放し、浮上したケーソンを引船でドック外に引き出す。一度に多数のケーソンを製作進水することができ、作業も安全に行える利点がある。大規模なドック施設は初期投資が大きく、長期的な利用を前提として採用される。

・フローティングドックでの製作
 フローティングドックは船体の両側面にしゃ水室をもち、このしゃ水室内及び船底部にある水室の水量を調節することによって船体を沈下、浮上させることができる。船内には発電機、排水ポンプ、クレーン、ウィンチなどが備えられ、船上において、陸上のケーソンヤード同様の施工作業が可能だ。船上で製作されたケーソンはフローティングドックに乗せたまま設置地点まで曳航する場合もある。水室に注水しフローティングドックが沈下したところで、浮上したケーソンを引き出して所定の位置に設置する。

 ケーソン製作における省力化も検討されている。部材を工場で製作し現場において接合するパネルシステムケーソンもその一つだ。この工法によって現場作業人員は通常のRCケーソンの場合と比較して1/4、工期も約2割短縮された。より経済的に、安全にケーソンを製作するための技術が次々と開発されている。