プロムナード 人と、海と、技術の出会い
巨大なケーソンも単体ではただのコンクリートの箱に過ぎない。
このケーソンを海上で一つ一つ並べていくことではじめて荒波を遮る防波堤として機能する。
ケーソンは内部が中空であるため船のように浮かせて曳航することができる。
さらに中空部に中詰材料を投入して据付け、海中にしっかりと安定させる。
その工程もケーソンの形状、施工環境によって様々な工法が開発されている。
ケーソンの進水工法
主に陸上で製作されたケーソンは、完成後海上に進水され、その多くは浮かした状態で設置場所まで曳航、据付けられるが、施工場所や製作環境によって各種の工法が行われている。
・ドライドック方式による進水
ケーソンが完成した後、ドック内に海水を注水しケーソンを浮上させる。この際、ケーソンがドックの側壁や他のケーソンに接触しないよう係留ロープで固定、古タイヤなどのフェンダーを設置して保護する。浮上したところでゲートを解放し順次引船によって引出される。
・斜路方式による進水
ケーソンを滑路上を滑らせて進水させる方式。まず台車上で製作、あるいは設置されたケーソンを進水斜路上に配置する。斜路には陸上からケーソンが浮上可能な水深まで軌条が設けられており、この上を台車のウィンチを徐々に緩めて滑り降ろすように進水させる。台車を用いず滑路上の函台でケーソンを製作し、台ごと滑路を滑らせて進水する斜路方式もある。滑路にヘット(獣脂)を塗り、函台を支えているくさびをはずし一挙に進水させる。
・フローティングドックによる進水
フローティングドックとはクレーン、注排水設備を有するケーソン製作専用の台船だ。船体の両側のしゃ水室と底部にある水室の水量を調整することにより船自体が沈降浮上する。船体を所定の深度まで沈め、船上のケーソンが浮上したところで引出して進水させる。
・起重機船による進水
大型クレーンを装備した起重機船でケーソンを吊上げて進水させる方式。岸壁の後背地などで製作されたケーソンの進水に用いられることが多い。起重機船が岸壁に十分接近できるだけの水深があること、岸壁などがケーソンの荷重に耐えられることなどが条件となる。
■ケーソンの曳航
台船によるケーソンの曳航
ケーソンを直接曳航
■ケーソンの据付方法
●起重機船による据付
●ウィンチによる据付
ケーソンの曳航から据付まで
進水したケーソンは引船や押船によって据付現場、仮置場まで曳航される。ケーソン本体を起重機船で吊上げた状態で船ごとを曳航する場合もある。
浮上したケーソンの曳航は、ケーソンに大廻しロープを掛ける方法が一般的だ。ケーソンの側壁上部に埋込まれた環状のワイヤーロープに曳航用のロープを掛けて引船によって行われることもあるが、ケーソンが不安定になることもあるので静穏時での短距離曳航に採用される。
ケーソンを長距離曳航することを回航というが、この場合はケーソン上部には浸水を防ぐ防水蓋を取付け、馬力の大きい引船と強靱な曳航ロープを用いる。気象、海象を十分に調査し、緊急時の避難場所も検討する必要がある。
ケーソンの据付は正確さと高い精度を要求されるデリケートな作業だ。基本的にはすでに据付けられたケーソンで、新たに据付けるケーソンを引き込む工法が採られている。第1函目の据付は既設のケーソンをガイドとすることができないため仮置として設置し、第2函目を据付けた後、微調整しながら再度所定の位置に据付け直すこともある。
2函目以降の据付は既設ケーソンを基準として施工する。静穏な海域ではレバーブロックなどで引き込むことができるが、波浪の影響を受ける場合は起重機船のウィンチを用いる必要がある。
新たに据付けるケーソンの上部に手巻きウィンチを設置、ワイヤーロープによって既設ケーソン側に引き込む、あるいはそれとは逆に既設ケーソンの上部にウィンチを設置して据付けるケーソンを引きつける方法が一般的だ。波高が高い場合は既設ケーソン側面に起重機船を配し、船のウィンチから既設ケーソンと据付ケーソンの上部にワイヤーロープを張り巡らせて引き込む方法が採られる。さらに波が高い条件下では、ケーソンの四すみを引船で引張りながら据付ける「流し方式」が採用されることもある。
起重機船で曳航、据付ける場合は設置場所への誘導、位置決めは起重機船のアンカーを操作しながら行う。位置がずれた場合でも再据付が容易で、精度良く施工することができる。
ケーソンを所定の位置に誘導したら、内部の隔室に注水し、ケーソン本体を基礎マウンド上に徐々に降ろしていく。各隔室に水位の差が生じないように均一に注水することが基本だ。注水はケーソンの側壁下部に装備されたバルブを開く方法と、上部からポンプによって海水を流し込む方法がある。基礎マウンドから10〜20cm程のところで注水を一旦中止、最終的な位置決めを確認した後に一気に注水して基礎マウンド上に着底させる。
着底したケーソンを確実に安定させるため、引続き中詰と蓋コンクリートが施工される。中詰作業ではガット船、ポンプ船、ベルトコンベアなどによりケーソン本体内部に砂質土や石が投入される。中詰材はこの他に鋼滓などの再資源材料が使用されることもある。投入量が不均等にならないように管理することが大切だ。中詰完了後、波によって中詰材が飛散しないように天端部に蓋コンクリートが施工される。
仕上げとして施されるのが波による被害を防止する上部工だ。上部コンクリートの打設はコンクリートプラント船による直接施工のほか、陸上から台船でアジテータ車を運搬してコンクリートを打設する方法など、現場の施工条件に応じて選定される。