Umidas 海の基本講座

umidas 海の基本講座

太平洋南海沖海溝の3次元表示[資料提供]海上保安庁海洋情報部


海底地形の成り立ちとプレートテクトニクス

 海嶺はマントルが地下から上がってくることで地形が隆起して形成され、海溝は海嶺で形成された新しい海洋地殻が大陸地殻とぶつかり沈み込むことでできる。このように、海底上部を分ける複数のプレートが動き、衝突や離合が行われているという考え方を、「プレートテクトニクス」と呼ぶ。海底調査の進歩に伴い、1960年代に理論化されたプレートテクトニクスは、さらに近年になり地球内部からプルームと呼ばれる物質が上昇しているのではないかという「プルームテクトニクス」という理論を生み、現在も調査や研究が続けられている。

海底に山あり谷あり平原あり

 海底には地上の地形と同じように「山」や「谷」を思わせる多様な地形があり、これらを海底地形と呼ぶ。海底地形はまず、大規模な地形単位の分類として大陸縁辺部、中央海嶺、深海盆底の3つに分けられる。
 大陸縁辺部とは、名前の通り大陸の付近にある地形である。これは大陸斜面や大陸棚、海溝、大陸斜面の基部と大洋底との間に広がる緩い傾斜(コンチネンタルライズ)の総称で、いわば大陸の縁で海水に覆われている地形である。
 一方で中央海嶺は、数千kmに渡って海底に連なる巨大な山脈と考えると分かりやすい。海嶺はマントルが地下から上がってくる場所であり、なかでも大陸移動の原因となるような大規模なものを中央海嶺と呼ぶ。代表的な中央海嶺には大西洋の南北に連なる大西洋中央海嶺、チリ沖合のイースター島からカリフォルニア湾にまで続く東太平洋海嶺(海膨)、インド洋中央海嶺などがある。中央海嶺は新しい海洋地殻が形成される場所であり、海底が生まれる場所ともいえる。
 大陸縁辺部と中央海嶺の間に、盆地状の形態で広がっているのが深海盆底である。通常、水深5,000mほどの位置にあり、いわば海の大平原といったもので、身近な深海盆底としては日本海盆や四国海盆などがある。

海底を構成する多様な地形

 地上の地形に「山」や「丘」、「谷」や「平地」があるように、海底地形にも、上記の大きな分類よりも細かい地形の分類がある。
 地上の山に当たるものが、「海山」である。海山は周辺から独立した円錐形の海底地形であり、複数の海山が連なる地形を「海山列」という。「海丘」は海山ほどの大きさではない、小規模な海底の高まりを指す。
 地上の谷に当たるものには、狭く深いくぼみを「海底谷(こく)」と呼び、海底扇状地や深海平原にある細長いくぼみは「深海長谷(ちょうこく)」と呼ばれる。一方で「海溝」は、たいへん深く長い海底のくぼみを指す。また、海底谷や深海長谷の縁にできる堤状の地形は「海底堤防」、中央海嶺の軸部にあるくぼみ状の地形は「中軸谷」などと呼ばれる。
 大陸に接する「大陸棚」や大規模な広さをもつ平坦地である「海台」、海溝よりも浅く平らな底を持つ「舟状海盆」などは、地上の地形で言えば平地や盆地と言えるだろう。
 これらの海底地形は直接的に船などの運航には関連が薄いが、海運などにかかわりの深い海底地形の名称もある。「礁(しょう)」は海面やその付近にある岩であり、「瀬」は沖合いの浅瀬で、これらは時として海上航行に危険を及ぼす。一方で「堆(たい)」は水深は浅いものの船舶などの運航には支障をきたすことのない深さを持つ海底の隆起である。

複数の海盆で構成される日本海

 それでは身近な海底地形の例として、日本海の海底地形を見てみよう。日本海は平均水深1,350m、面積はおよそ130万㎡。中央部にある水深1,000mほどの浅瀬は「大和堆」と呼ばれる。その北側に広がる「日本海盆」は日本周辺の縁海では最も深く、最深部は水深約3,700mに及ぶ。また大和堆の南西には「対馬海盆」、南東には「大和海盆」があり、2つの海盆を分ける水深1,000mほどの海底は「隠岐海脚」と呼ばれている。
 一方で日本海に接する海峡はどれも水深が浅いのが特徴であり、宗谷海峡は水深約50m、対馬海峡や津軽海峡も最深部が水深140mほどとなる。また日本海に接する沿岸付近の地形を見ると、中国地方の沿岸は大陸棚が発達しているが、北陸沿岸は富山湾をはじめ急深で複雑な海底地形である。東北沿岸は阿賀野川や信濃川などの河川から流れ出た堆積物によってできた、細長い大陸棚が特徴となっている。

海上保安庁の調査により小笠原東方海域の多数の海山が発見され、「春の七草海山群」と命名された。

音響測深機を用いて作成された精密海底地形図[資料提供]海上保安庁海洋情報部

海底地形の変化が起こす海溝型地震
 左の図は、今後30年以内に震度6以上の地震が起きる確率を表した「全国地震動予測地図」である。赤みの濃いエリアほど確率が高い。特に関東から四国にかけての太平洋沿岸域が目立つが、これは海底地形と大いに関係がある。
 太平洋の日本沿岸海域には大規模な海溝が存在する。その地下深部では、海洋プレートが大陸プレートの下に潜り込んでいる。両者の境界部分はたわみ、やがて限界に達して跳ね上がるときに、大きな地震が発生する。これを海溝型地震という。2003年9月に発生した十勝沖地震、2004年に20万人以上もの津波による死者を出したスマトラ沖地震もこの型である。
 マグニチュード8以上の海溝型地震は100〜200年周期で発生するとされており、その発生メカニズムから、大規模な津波を伴う可能性がきわめて高い。
 図が示すとおり、東海や東南海・南海、宮城県沖・三陸沖、根室沖などが、近い将来、海溝型地震が発生するであろうエリアだ。人災はともかく、天災を未然に防ぐことはほぼ不可能。ならば、災害が発生する時期と規模を予測するとともに、発生地域の被害を最小限に抑えるため港湾整備などの対策を講じる必要がある。

政府の特別機関、地震調査研究推進本部が作成した「全国地震動予測地図」