Umidas 海の基本講座
プランクトンは顕微鏡でなければ見えない小さなものばかりでなく、クラゲ類もその一種
生態系におけるプランクトンの役割
プランクトンが魚類や鯨などの餌となり、食物連鎖の土台となっていることはよく知られているが、地球環境という視点からも大きい役割を担っている。植物は光合成により二酸化炭素を吸収し酸素を生産するが、地球上にある植物全体の酸素生産量のおよそ半分は、植物性プランクトンからのものである。このため近年では、大気中の二酸化炭素濃度の増加に、南半球の植物プランクトンの季節変化が影響を及ぼしているのではないかという考え方も示されている。
いずれにしても、植物プランクトンは食物連鎖の基盤になるとともに、海洋の二酸化炭素吸収と酸素供給に大きな役割を占め、地球全体の環境変動に結びつくものであり、今後さらに詳しい生態系の解明と研究が期待されている。
水中浮遊生物の総称
「プランクトン」という言葉は、広く知られているが、その正確な意味は意外に理解されていない。プランクトンは浮遊生物という意味であり、海中や淡水中などを漂って生活する生物の総称である。このため、さまざまな分類と、それに属する生物を含んでいる。その多くは、泳ぐことができないものか、あってもそれがごく微力なため、水の流れによって浮遊してしまうものがほとんどとなっている。こうした点から、プランクトンと呼ばれるものには、微小な珪藻類や小型の甲殻類はもちろん、魚類の幼生、さらには大型のクラゲなども含まれる。
このようにプランクトンとは分類学としての単位ではなく、「水中に浮遊する生物」という生活類型による分類である。このため浮遊せず水流に逆らって遊泳できる生物は「ネクトン(遊泳生物)」と呼ぶ。また水底で付着生活をおくる微小な水生動物や藻類などは、「浮遊生物」という定義に当てはまらないため「ベントス(底生生物)」と呼ばれ、プランクトンとは区別されている。ただし、こうした分類の概念は理論的なもので、すべての水生生物に厳密に当てはめることはできない。たとえば動物プランクトンの代表としてよく知られているオキアミは、プランクトンとネクトンの中間的な遊泳能力を持っており、「マイクロネクトン」とも呼ばれる。
プランクトンの分類
さらにプランクトンは、生活史による分類として、「一時プランクトン」と「終生プランクトン」の2つに分けることができる。一時プランクトンは、生活史の一部をプランクトンとして過ごすもので、卵と幼生の時期をプランクトンとして過ごす海底無脊椎動物などが例となる。一方で終生プランクトンは、その名の通り、生活史のほぼすべてをプランクトンとして過ごす生物である。
また栄養摂取の形態による分類では、「動物プランクトン」と「植物プランクトン」の2つに分けることができる。動物プランクトンは、餌を摂取することで生存するプランクトンで、多くは植物プランクトンを餌とする。その種類は、わずか数十〜数百ミクロンの原生生物をはじめ、体長数ミリのカイアシ類、数センチの大きさとなる甲殻類などがある。
動物プランクトンで最も良く知られているのは、オキアミだろう。オキアミは、オキアミ目に属する甲殻類の総称である。見た目はエビに似ており、浮遊生活をおくる。魚釣りや養殖の餌、あるいは魚醤や干しエビとして食用もされる。代表的なオキアミであるナンキョクオキアミは、南極海に大量に生息しており、ヒゲクジラ類の餌として知られる。櫛のような毛の生えている脚で珪藻類を濾し集めて食べ、体長6cm程度にまで成長する。またコペポーダに代表されるカイアシ類は、体長数ミリ程度の小さな甲殻類。口のまわりにある脚で水流を起こし、細かな毛の生えた脚でより小さな動物プランクトンや植物プランクトンを捕らえて食べるもので、沿岸部では海水1リットルあたり数千個体になるほど数が多い。
赤潮は植物プランクトンの影響で発生する[写真提供:第五管区海上保安本部]
三河湾の人工干潟
植物プランクトンと赤潮
植物プランクトンは、光合成によってエネルギーを生産する独立栄養生物の総称である。1ミクロンに満たない原始的な藻類から1ミリを超える大型の珪藻まで、海中には約5000種の植物プランクトンがいるが、その多様な進化の過程は、現在でも分からないことが多い。
分類上、植物プランクトンには珪藻、藍藻、渦鞭毛藻など、藻類が多い。その多くは非常に小さいため、裸眼では見ることができないが、大量の植物プランクトンが集まると、その水がプランクトンの色素によって、さまざまな色に染まって見えることがある。いわゆる赤潮は、こうした例の典型であり、同様に、白潮や緑潮なども見られる。なお、海水に含まれる硫黄がコロイド化して海水が白濁する「青潮」は、発生メカニズムの違いから、いわゆる赤潮とは区別されることが多い。
赤潮は、養殖魚介類に大きな被害をもたらすことがあり、さまざまな対策の研究が進められているが、そのひとつが人工干潟の造成だ。アサリなど干潟の生物は、プランクトンが棲む海水を摂取し、有機物を体内に取り込み、海水を排出する。干潟で海水が「ろ過」され、潮の満ち干きが「モーター」となり、浄化された大量の海水が沖へ運ばれるというメカニズムである。
業務用のプランクトンネット
プランクトンネット
プランクトンは、プランクトンネットで採集することができる。これは目の細かい円錐形や円筒形の網の先に採取用の瓶をつけたもので、古くは動物プランクトンの採集には0.3mmのメッシュの網を、植物プランクトンには0.1mmのものを使ってきた。しかし近年では、動物プランクトン用には0.1mmのネットを、植物プランクトンには水ごとプランクトンを固定・濃縮沈殿させる採水法が用いられる。
なお簡単なプランクトンネットは、ペットボトルとストッキング、写真用のフィルムケースなど身近な物を使って自作することもできるので、子供たちの学習教材として、ネットの製作やプランクトン観察をしてみるのもよいだろう。