Umidas 海の基本講座

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日本近海の海域火山(海底火山と火山島)の分布[図版提供:海上保安庁海洋情報部]


近年起こった海底火山の噴火

 海底火山の噴火は、なかなか観測されることが少ない。最近の観測例では、
2005年7月2日、小笠原諸島の南硫黄島沖の海面から、海底火山の噴火による巨大な水蒸気柱が発生。海上保安庁によって観測された。
現場は福徳岡ノ場と呼ばれる海底火山の近くで、1986年と1992年にも噴火が確認されている。このときの噴火で噴き上げられた水蒸気柱は、高さ1000m、直径50〜100mという巨大なものだったという。さらに周辺の海域には長さ1000mにわたって海水がオレンジがかった茶色に変色、灰色の泥水のようなものも湧き出しているのが確認された。

地上の火山との環境の違い

 海底火山とは、その名の通り海底にある火山のことである。日本は世界でも有数の火山国として知られているが、陸上と同様に数多くの火山が海底にあるということは、意外に知られていない。
 海底火山は海の底にあるということ以外、地上の火山と変わらない。しかし、この「海の中にある」という環境が、地上の火山との大きな違いを生んでいる。たとえば海底火山の場合、周囲に存在する多量の海水によって高い水圧がかかることから、地上にある火山に比べ噴火の規模が小さくなることが多い。しかし、深海ではなく浅い海底で噴火する場合は、海水の圧力が少ないことから、地上の火山と同様の噴火を引き起こすことがある。
 一方で、海底火山の典型的な噴火の形に「マグマ水蒸気爆発」がある。これはその温度が
1000℃以上にもなるマグマが海水にふれ、それにより周辺の海水が一気に気化、水蒸気となって膨張し、すさまじい爆発をするというものである。
こうした噴火の典型的な例としては、1973(昭和48)年の西之島新島がある。ただし、こうしたマグマ水蒸気爆発は、海底火山だけに起こるものではない。地上にある火山でも、地下水や湖水などにマグマが触れることで、水蒸気爆発は発生する。たとえば1888(明治21)年の会津磐梯山の噴火は、山の内部で水蒸気爆発が発生したものだ。これにより山崩れが起こり477人が死亡、長瀬川が堰き止められ、現在の五色沼をはじめとした湖沼群が形成された。

観測・調査が難しい海底火山

 海底火山は、海の底にあることから、また広大な海洋に点在していることから、実際に噴火している回数に比べ、人によって観測される機会は大変少ない。たとえば、現在、海上保安庁海洋情報部の「海域火山データベース」で公開されている火山は、36か所に過ぎない。しかし、実際には日本近海だけでも、それよりはるかにたくさんの海底火山があり、気づかれないうちに噴火を繰り返していると考えられる。
 一般的に、海底火山の確認や調査は、航行中の船舶や飛行機、操業中の漁船などによって偶然発見された後に、研究者などによる観測・調査が行われることが多い。このため近年では、人工衛星を使って海底火山の活動を観測しようという試みも始まっている。また活動中の海底火山の調査についても、従来は海水の変色や吹き上げられた軽石などの現象調査のみにとどまることが多かったが、最近では海の中を自律的に動き回る海中ロボットであるAUV(Autonomous Underwater Vehicle)の開発により、これまで以上に詳しい調査ができるようになりつつある。

今も活動を続ける海底火山の数々

 日本の近海にある主な海底火山には、比較的最近、火山活動を起こした明神礁、西之島新島、福徳岡ノ場、海徳海山に加え、手石海丘、薩摩硫黄島の6か所がある。
 明神礁は東京から400km以上南、伊豆諸島南部にある海底火山で、1952(昭和27)年の大噴火を最初に報告した第十一明神丸という漁船にちなんで命名された。この時の噴火では、調査に出向いた海上保安庁の調査船が噴火に巻き込まれ、31名が亡くなっている。この海底火山は、激しい爆発を度々起こし、噴火によって何度も新しい島を形成したが、再度の爆発や波の浸食などにより、島は形成と消滅を繰り返している。一方で、明神礁よりもさらに南にある無人島の西之島で起こった1973年の海底火山噴火では新島が形成され、こちらは現在でも存在している。
 いずれにしても、海底火山の活動は、直接、海運や漁業に被害を与えることはまれである。しかし、その活動は科学的な研究対象として、地球の成り立ちや生物の進化を探る貴重な機会であり、今後は、より確実で効率的な観測と調査の推進が期待されている。

1973年、西之島のすぐそばの海底で火山活動が始まり新島を形成。翌年に活動は休止したが、新島はその後、西之島と接続し現在でも島の一部として存在する。[写真提供:海上保安庁海洋情報部]

東京から南に約1,100kmにある海徳海山の東側の峰で1984年に噴火があり、海水の変色が広域にわたって見られた[写真提供:海上保安庁海洋情報部]


人工衛星を使った海底火山の観測
 これまで海底火山の噴火の観測や調査は、火山活動が偶然発見されることから行われることがほとんどだった。しかし最近では、人工衛星を用いたハイテク観測が試みられている。火山噴火予知連絡会事務局(気象庁)は、以前から衛星データを解析するためのグループの設置を進めており、2006年11月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同し、地球観測衛星「だいち」(ALOS)に搭載されている合成開口レーダーの観測データを使い、硫黄島の地殻変動について試験的に調査解析を開始した。
 その結果、同年6月16日、8月1日、11月1日のデータを用いた地殻変動の解析では、6月16日〜8月1日は変化が見られなかったが、
8月1日〜11月1日では、島の南東部海岸で数cm〜10cmの隆起が、北部中心地で数cmの沈降が確認された。右下図の黄色い箇所が隆起部、赤い箇所が沈降部である。
 この衛星を使った調査の実証実験は、2011年の「だいち」運用終了まで続けられ、気象庁やJAXAのほか、国土地理院や海上保安庁情報部、防災技術研究所などの機関も参加し、将来の火山活動調査への活用を目指している。

上が2006年6月16日〜8月1日、下が同年8月1日〜11月1日の硫黄島の地形変化の観測結果[写真提供:JAXA]