『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて
名古屋港に日本の港湾の未来をみる
名古屋港で取扱われる出入貨物の98%が中部圏で生産、消費されている。名古屋港は中部圏の物流を担っているとも言える。愛知県内の就業者の6人に1人が何らかの形で名古屋港に関連する業種に従事していることからも、この港が地域経済に及ぼす影響の大きさがうかがえる。「日本の産業拠点港である名古屋港は地域に根ざした総合港湾という側面も持っています。」と語るのは同企画調整室の小池信之主幹だ。「名古屋港の後背地には自動車を始め、電気、石油から陶磁器、繊維などあらゆる産業が発達し、わが国有数の経済圏を形成していますが、これらの産業は海外と密接なつながりを持っています。このため外貿のための船舶が減少してくると、地域産業も打撃を受け、各企業が海外に進出してしまい、産業の空洞化という現象を助長しかねません」。地元企業にとって材料や製品の輸出入の生命線ともいえる「港」の重要性が自ずと浮かび上がってくる。より機能的、経済的な港湾を目指した整備が、取扱貨物量の減少や産業の空洞化に歯止めをかける要となる。「これからは地域のものづくりと一体となった産業ハブ港としての整備が重要になってきます」。
地域に根ざした名古屋港のポリシーは、親水施設や緑地の整備にも現れている。そのシンボルエリアともいえるのがガーデンふ頭だ。広々とした公園はちろん、博物館、水族館から、飲食ショッピングモールまでが集中する一大アミューズメントゾーンとして市民に解放されている。ウィークデーでもここに足を運ぶ市民は多い。屋内施設も充実しているため雨天時の来客者も途絶えることはない。港区西側の工業地帯においても電力会社によって整備されたワイルドフラワーガーデンが人気を集めている。水上バスでもアクセスできる海と緑に囲まれたこの庭園は名古屋港の新しいスポットになりつつある。
コンテナ物流革新と基盤産業の新事業展開、さらに親水空間としての港湾整備、これらは日本の港湾に共通する課題といえるだろう。名古屋港は中部国際空港にも隣接し、市街地では確保することが困難な広大な土地、豊かな空間も有している。陸海空のアクセスと、物流インフラを融合させた産業展開が可能だ。名古屋だからこそ実現できるスタイルを目指し水辺のポテンシャルを高めていくことで産業振興に寄与していくための議論が始まろうとしている。
産業、経済の振興と一体となった港湾整備に取り組み、港湾を取り巻く様々な課題に果敢に挑む名古屋港。そこに日本の港湾の将来像が垣間見えてきた。
完成自動車は名古屋港の主力貨物だ(写真:名古屋港管理組合)
北浜ふ頭、南浜ふ頭は製油・LNG基地になっている
鉄鋼生産基地の東海元浜ふ頭
加工された鋼管、鋼板も東海元浜ふ頭の製品岸壁から積出される
博物館や展望室があるガーデンふ頭の名古屋港ポートビル
電力会社によって整備されたフラワーガーデン
写真/西山芳一
COLUMN
中部圏の新しいゲートウェイ 中部国際空港・セントレア
名古屋市の南約35kmの伊勢湾東部常滑沖の海上に広大な人工島が産声をあげた。中部圏の新しい空のゲートウェイとなる中部国際空港セントレアだ。第一種空港に指定された本格的な海上空港である。3,500mの滑走路を有し、24時間利用可能となるこの空港は、未来型の空港として注目を集めている。
平成12年8月に開始された空港建設事業にあたり、最も配慮されたのは環境対策だ。護岸築造後に埋立を行い、さらに空港島の周囲に汚濁防止膜を張り巡らせることにより、工事による海水の濁りの拡散を最小限に押さえた。埋立用土には山土を用いるほか、名古屋港の航路整備で発生した浚渫土も有効利用されている。空港を取り囲む傾斜堤護岸には、自然石が採用され、岩礁性藻場を創出することによって海洋生物の生息域も維持された。また護岸の角部には丸みを持たせ、空港全体の形状にも曲線が取り入れられている。これは対岸部との海域幅を確保し、常滑沖の南下流の流速低下や停滞域の発生を縮小、さらに渦の発生を抑止することを目的とした設計方針によるものだ。
空港建設は平成17年2月の開港に向けラストスパートだ。羽田、関空で培われた人工島造成、海上空港建設の技術がここでも活かされている。
中部国際空港セントレア 2003年11月撮影(写真:中部国際空港株式会社)