『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて
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太平洋にちりばめられた宝石、小笠原諸島は近年「世界自然遺産」への登録計画も進む美しい島々だ。
誕生以来一度も大陸に接したことがなく、独特の自然、生態系を見せる。
東京から1,000km、大海原に浮かぶ離島では、港が島民の暮らしを支える唯一の生命線だ。
「生活港湾」ともいえるその姿からは、港の重要性も浮かび上がってくる。
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小笠原諸島父島 二見港
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小笠原諸島
小笠原諸島を支えるライフライン
午前9時、東京竹芝桟橋の一角がにわかに動き始めた。東京と小笠原諸島の父島を結ぶ「おがさわら丸」に、朝日を浴びながらコンテナが積み込まれる。食料品や衣料、島民の日常生活に欠かせない大切な物資を満載したコンテナだ。その数は決して多くはないが、ひとつひとつの荷物に、離島で暮らす人々に向けられた思いがこめられている。おおむね6日に1度就航している「おがさわら丸」は島と内地を結ぶライフラインだ。島に帰る人、島を訪れる人、乗船客が次々と乗り込んでいく。東京から南へ約1,000km、小笠原諸島へ向かうおよそ25時間の船旅がここから始まる。
小笠原諸島は太平洋上に散在する30余の島々からなり、聟島列島、父島列島、母島列島、硫黄火山列島の4列島に大別される。この全域が東京都小笠原村とされ、約2,300人の村民のほとんどは父島、母島の両島で暮らしている。小笠原諸島は亜熱帯に属し、年間の平均気温は23.2度、温暖な気候で冬期でもシャツ1枚で過ごすことができる。
この小笠原諸島には島民の生活を支える大きな4つの港がある。父島の二見港、二見漁港、母島の沖港、母島漁港だ。二見港は父島の西側、二見湾内にあり、湾口約1.5km、奥行約2kmの波穏やかな天然の良港だ。水深も40mあり内地から訪れる大型船舶の絶好の錨泊地として小笠原の表玄関の役割を果たしている。二見漁港はこの二見港の最奥部に位置し、マグロ、イセエビ、などが水揚げされる漁業基地だ。一方、父島の南約50km、二見港からは約2時間の母島南西海岸にあるのが沖港だ。定期船「ははじま丸」によって二見港と結ばれている。沖港は風波の影響を受けやすいため、外防波堤によって強固にガードされている。母島漁港は母島の東側、東北海岸で沖港を補完する漁港として整備された。
竹芝桟橋を午前10時に出港した「おがさわら丸」は、丸1日たった翌日昼近くに二見湾内に入った。太平洋の黒潮に揺れ続けた船体が湾に抱かれようやく落ち着きを取り戻す。港内はさらに静穏で、岸壁には手を振って船を歓迎する多くの村民の姿も目に入ってくる。いよいよ接岸、無事な帰島と再会を喜びあう人々の顔が港に溢れる。岸壁から人影が少なくなるとコンテナの荷役が始まる。荷物を集荷する車も集まってきた。生鮮食料品を始めとする様々な荷物が、島内の家庭、店舗、宿泊施設などに次々と運ばれていく。二見港は内地と小笠原を結ぶ唯一の結節点だ。人、もの、情報が行き交う港の風景から、小さいながらもこの港湾に託された使命の大きさが伝わってくる。
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湾に囲まれた父島、二見港の全景
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内地と小笠原諸島を結ぶ「おがさわら丸」
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母島、沖港も島民450名の暮らしを支える重要な港だ
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入港時には多くの島民が出迎えてくれる
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東京都小笠原支庁
手塚博治 港湾課長
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母島と父島を結ぶ「ははじま丸」