『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて
親水空間、物流拠点としての広島港
「港は市民にとって身近で、集い、憩うことのできる港でなければならない」と語るのは国土交通省中国地方整備局 広島港湾・空港整備事務所 企画調整課の松原孝雄係長だ。「意外かもしれませんが、広島の市街地に暮らす市民にとって海辺、港に対する関心はいまひとつ希薄な印象がありました」。島しょ部と市街地を結ぶ「結節点」である港が「通過点」として位置付けられ、日常の中に埋没してしまったのかもしれない。「しかし、新しい旅客ターミナルはもとより、釜山航路の大型フェリーの就航や、国際コンテナターミナルの供用開始などの話題も注目を集め『宇品』周辺を訪れる人も増えてきました」。さらに港湾は親水空間とであると同時に、物流の拠点としてその機能を果たさなければならないと語る。現在、広島港では宇品、出島地区を中心に「広島の海の玄関にふさわしいまちづくりと国際港湾都市の建設」を目指した「広島ポートルネッサンス21事業」が展開されている。その一環として出島地区には、中核国際港湾としての機能強化を目的としたコンベンションやレクリエーションのための一大拠点が生まれようとしている。130haに及ぶ埋立地を造成するために、かつてない6隻もの深層混合処理船が同時に稼動するという大規模な地盤改良工事が展開された。また、同地区では中国地方で最大級の「広島港国際コンテナターミナル」の供用も昨年3月から始まっている。広さは約10ha、水深−14m、330mの岸壁には中国地方では最大級の最新型ガントリークレーンが2基備えられた。24時間の荷役が可能なこのターミナルによって、広島港では従来の2倍のコンテナ貨物を取扱うことができるようになった。釜山と広島を16時間で結ぶ大型フェリー「銀河」は週3便が就航、周辺の緑地帯も美しく整備された。こうした動きにともない、港に通じる道路や新しいバスルート、橋などのインフラ整備が進み、店舗やマンションも立地し始めている。市民にとって広島港はグンと近くなり、旅客ターミナル正面の緑地ではコンサートやイベントも開催されるようになってきた。
夕刻、宇品内港地区は家路に向かう人々で再び活気づく。照明があるとはいえ薄暮の時間帯でも、乗船客は押合うこともなく整然と船に乗り込んでいく。その様子から、船が電車やバスと同様に日常的な交通手段として定着していることを改めて実感させられる。
市民の生活を根底から支える港づくり。明治期に千田県令と市民の手によって始められた築港の志は、100年以上を経た現在も、ここ広島港で連綿と継承されている。
[事業所名、役職名は取材当時(2004年3月)のものです。]
自動車運搬船や大型貨物船が入港する海田地区周辺
海田地区側から宇品地区を臨む(写真:広島県)
平成15年3月に供用が始まった「広島港国際コンテナターミナル」(出島地区)
国土交通省 中国地方整備局
広島港湾・空港整備事務所
企画調整課 松原孝雄 係長
陽が暮れてからも次々と船が発着を繰り返す(広島港宇品旅客ターミナル)
「銀河」の就航で韓国からの観光客も増えてきた
写真/西山芳一
COLUMN
自然の輝きを取り戻す水辺 五月市地区人工干潟
広島港の西側、五日市地区に水鳥たちの楽園がある。広島県が造成した「五日市地区人工干潟」だ。
現在、五日市地区では埋立をはじめとする港湾整備が進められている。この計画地に隣接する八幡川河口部は県内でも有数の水鳥の飛来地として知られていたが、計画を進めるにあたってこの干潟が失われてしまうため、埋立以前の干潟と同程度の干潟造成が計画に盛込まれた。着工は昭和62年、自然を「回復」させるだけではなく「創造」することを目的としたこの事業は全国的にも注目を集めた。
干潟の造成には護岸工事の際に掘り上げられたシルトを活用、敷きつめたシルトの上に海砂を覆砂する工法が採用された。砂より細かく粘土より粗いシルトは投入後に性質が変化することもある。事業はシルトの強度確認、海水の濁りを抑えた投入方法など様々な実験、検討を重ねながら進められた。覆砂工事では干潟の強度を十分に保つため三層にわたり1mもの海砂が投入された。
干潟は平成2年12月に完成、翌月からは追跡調査が始まる。造成1年後にはガン・カモ類で13種2000羽と、造成前を上回る鳥が飛来、シギ・チドリ類についても造成2年半後で10種約170羽が確認された。飛来する鳥類にとってさらに理想的な生息環境を創造するための観測は現在も続けられている。
実際に足を運んでみると、無数の鳥たちが水面で羽を休めている風景に心が和む。
本来、鳥たちの採餌、休息を目的として整備された人工干潟だが、バードウォッチング、散策に訪れる市民も多い。鳥にも人にもやさしい自然環境が港の中に創造されていた。