海洋土木技術

⑤埋立(人工島)

 埋立は、護岸で囲われた海域に土砂を投入して土地を造成することです。国土の狭いわが国では、古くから工業化を背景に臨海部で埋立が行われています。近年、海上空港などの巨大な人工島を建設する海洋土木技術として注目を集めています。また、埋立の目的は港湾や工業用地としての利用から、都市機能も含む用途へと多様化が見られ、環境との調和も大きなテーマとなっています。
 埋立の施工手順は、以下のように、原地盤を改良する、護岸をつくる、埋立土砂を投入する、埋立土砂を改良する、の4つに大きく分けられます。

原地盤を改良する
(サンドコンパクション船での改良)

埋立土砂を投入する
(リクレーマ船などで土砂を投入)

1.原地盤を改良する

 わが国の沿岸域の海底地盤は、軟弱な粘性土地盤が多く、古くから地盤改良に関する研究が活発に行われてきました。それぞれの時代の埋立工事において、さまざまな地盤改良技術が開発され、建設場所や土質に適した工法が採用されています。その代表的な工法には、以下のようなものがあります。

・サンドドレーン(SD)工法
サンドドレーン工法は、軟弱な粘性土地盤中に砂杭を鉛直に打設し、砂杭の排水効果で圧密促進を図り、軟弱地盤の間隙比を減少させて、地盤の強度を増加させる工法です。古くから利用されているバーチカルドレーン工法の一つで、豊富な施工実績を残しています。
この工法に用いられる専用船は、大水深での施工や、急速施工に対応するため、水深60m まで施工可能で、ケーシングパイプを多連装(12 ~ 14 連装)した大型船も建造されています。

サンドドレーン船

・サンドコンパクションパイル(SCP)工法
サンドコンパクションパイル工法は、軟弱な粘性土地盤に締め固めた砂杭を打ち込み、砂杭の支持力を付加させて地盤を安定化させる工法です。また、ゆるい砂地盤では、締め固め効果によって液状化を防止する工法として用いられています。
この工法に用いられる専用船は、砂杭造成方法の違いにより、それぞれに特徴のある締め固め装置を装備し、水深70m まで施工できる大型船も建造されています。

サンドコンパクション船

・深層混合処理(CDM)工法
深層混合処理工法は、セメント系固化材と軟弱土を攪拌混合・固化させ、軟弱地盤を堅固な地盤に改良する工法です。水面下50m 以深の海底地盤まで改良ができ、早期に安定した強度が得られるため、大規模な構造物を建設する際の地盤改良工事で多く採用されています。
この工法に用いられる専用船は、最近ではエネルギーの高効率化と自然エネルギーの利用を組み合わせた環境配慮型の大型船も建造されています。

深層混合処理船

深層混合処理工法の施工サイクル
(貫入時吐出の場合)

2. 護岸をつくる

 埋立地の外郭施設となる護岸は、波浪による陸岸の侵食および土圧による陸岸の崩壊を防止するための構造物です。埋立護岸は、投入する土砂の流出を抑え、海水への汚濁拡散を防止する目的もあり、埋立土砂を投入する前に築造されます。
 護岸の構造形式や施工方法は、「護岸」をご覧ください。

3. 埋立土砂を投入する

 埋立地の外郭施設となる護岸が概成した後、護岸の内側に埋立土砂を投入します。土砂の投入方法には、ポンプ船や土運船による直接投入とリクレーマ船など揚土船による揚土があります。  また、揚土のうち揚土船で直接揚土される部分を1 次揚土(直接揚土)といい、運搬を伴う揚土を2 次揚土(間接揚土)といいます。

埋立土砂揚土の区分

直接投入

・ポンプ浚渫船による埋立
ポンプ浚渫船は、ラダー先端に取り付けたカッターで切り崩した海底の土砂を、ポンプで海水とともに吸い上げ、排砂管を通じて埋立地まで排送する作業船です。
ポンプ浚渫船による埋立は、わが国の埋立事業の代表的な工法として多くの実績を残しています。送泥距離が長くても対応できるため、浚渫土を利用した、大規模な埋立工事で威力を発揮します。

ポンプ浚渫船による埋立フロー

・土運船による埋立
土運船は、浚渫船などから排出される土砂を泥倉に受け入れて運搬する作業船です。土運船の船底が開いたり(底開式)、船体自体が左右に開いたり(全開式)することによって、土砂を海底に直接投入します。直接投入は、埋立地が護岸で締め切られるまでの間に、埋立地内が土運船の作業可能な水深を確保できなくなるまで行なわれます。

土運船による埋立土砂の直接投入

1次揚土(直接揚土)

・リクレーマ船による埋立
リクレーマ船は、土運船によって運搬されてきた土砂を揚土機で揚土し、ベルトコンベアなどを介して埋立地に排出する作業船です。船体の先端にあるブームコンベアで土砂を排出できるため、護岸の外から埋立地内に土砂を揚土することができます。揚土機にはグラブバケットやバックホウなどが用いられ、甲板架台上を自由に移動できるため土運船を移動させる必要がありません。また、ブームコンベアは180 度旋回ができ、広範囲な埋立が可能です。

リクレーマ船による揚土状況

・バージアンローダ船による埋立
バージアンローダ船は、土運船の船倉に積載した土砂に注水して撹拌混合し、揚土ポンプで吸い上げて埋立地などに排送する作業船です。浚渫土のように含水比が高い土砂 で埋め立てる場合は、バージアンローダ船による揚土が適しており、長距離搬送が可能です。また、埋立地の水を循環利用することによって汚濁の拡散を防止できます。

2次揚土(間接揚土)

・ブルドーザーおよびダンプトラックによる埋立
揚土船で陸揚げされた土砂をダンプトラックで運搬し、ブルドーザーによる撒き出しと、振動ローラなどによる転圧・締め固めを繰り返して、必要な高さまで埋め立てます。

4.埋立土砂を改良する

 埋立地盤の土砂は、軟弱な浚渫土砂や比較的緩い砂が多く、地盤沈下や液状化などの対策として地盤改良を行います。埋立土砂の改良には、地盤中の土砂を改良する方法と、改良した土砂で埋め立て、あるいは置き換える方法があります。代表的な工法のうち、前者の工法として薬液注入工法と静的圧入締め固め工法、後者の工法として管中混合固化処理工法とSGM 軽量土工法があります。

・薬液注入工法
薬液注入工法は、液状化の可能性がある地盤に恒久型薬液を注入し、薬液が土粒子間の間隙水と置き換わりながら浸透し固結することで、地盤の強度を増加させ液状化を防止する工法です。
低圧で薬液を浸透注入するため、既設構造物の直下や供用中の施設(空港滑走路や岸壁)の施工にも適しています。

薬液注入工法の改良イメージ(水平誘導式曲がり削孔使用時)

・静的圧入締め固め(CPG)工法
静的圧入締め固め工法は、流動性の低いモルタルを、振動や衝撃を全く与えずに地盤中に圧入し、所定の位置で固結体を連続的に造成します。この固結体による締め固め効果により、周辺地盤の密度が増大し液状化を防止します。設備が小型で、無振動・低騒音なため、狭い作業空間や既設構造物の直下、直近の地盤で威力を発揮します。

・管中混合固化処理工法
管中混合固化処理工法は、浚渫土のリサイクル技術の一つで、圧送中の浚渫土に固化材を添加し、空気圧送管内で発生するプラグ流による乱流効果を利用して浚渫土と固化材を攪拌混合させる工法です。改良された処理土は強度を保ち、沈下対策、液状化対策として用いられます。また、既存の大型空気圧送船を利用することにより、大量急速施工に対応できます。

管中混合固化処理工法による埋立状況

・SGM軽量土工法
SGM軽量土工法は、浚渫土や建設発生土に軽量化材(気泡や発泡ビーズ材)や固化材を混合して軽量で安定した地盤材料に改良し、埋立材や構造物の裏込め材に利用する工法です。軽量土は専用のプラント船などで改良し、ポンプ圧送で水中・気中に自由な形状で打設します。

SGM軽量土の専用プラント