『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて
悠久の歴史を語り継ぐ城跡と新しい沖縄の港湾を創造する本島中部
沖縄といえば“青い海に白い雲”、マリンレジャーのメッカというイメージが定着しているが、島の北端、辺戸岬までの約120Kmの海岸線を辿ると、そればかりではない沖縄の様々な姿に触れることができる。
那覇から40分ほど、宜野湾、嘉手納と白いフェンスに囲まれた米軍施設を縫うように走ると読谷村に入る。世界遺産に登録された座喜味城跡に立ち寄ってみた。15世紀初頭に城造りの名手でもあった、按司(豪族)、護佐丸の手になるこの城は、一の郭、二の郭に分けられた連郭式で、立つ位置によって、なだらかな曲面が何層にも重なって見える造形が美しい。本島全域はこうした城跡がいくつも点在しており、歴史に思いを馳せつつ遺跡を訪ねるのも面白い。
この城跡から58号線を少し離れて、東に向かうと中城湾に出る。護佐丸を攻め落とした城主、阿麻和利の居城であった勝連城跡から、湾に浮かぶ広大な埋立地を眺望することができる。中城港湾で進められている新港地区開発事業だ。およそ400haに及ぶ埋立地は、その全貌をすでに現しており、第一次埋立が完了したエリアには、医薬品、食品、化学工業など多くの企業が進出している。現在、第二、第三次埋立てに関わる防波堤や泊地、岸壁の整備が進行中だ。新港地区は「トカゲハゼ」というハゼ科の稀少種の生息地でもあり、工事は試験造成地で追跡調査をしながら、自然と共生するかたちで進められている。
58号線に戻り、左手に美しい東シナ海を眺めながらさらに北へ向かう。国定公園に指定されいるエリアだけあって、万座、いんぶ、瀬良垣と美しいビーチが連なっている。いかにも沖縄らしい風景、コバルトブルーの海が一挙に夏めいた雰囲気を盛り上げていく。実際この辺りでは1月であるにもかかわらず桜の花が開花期を迎えていた。
東シナ海に突き出たコブのような本部半島の入り口が本島北部の観光拠点、名護だ。隣接する本部町の桜の森公園では、日本一早い桜祭りが開催されていた。
名護漁港には、やはり色彩豊かな大漁旗が目につく。一仕事終えた漁師たちが、一隻の漁船に集まり談笑していた。穏やかな休息の一時だ。
那覇を出発してから1時間半ほど経過している。この辺りまでくると、周囲を走る車の速度もゆったりとしてくる。鉄道が敷設されていない沖縄では、移動、物流の手段として車は欠かせないものなのだが、決して慌てることなく、おおらかな運転ぶりが印象的だ。沖縄の「なんくる(なんとかなるさ)精神」が、こんなところにも現れているのかもしれない。
沖縄の瀬戸内とも呼ばれる与勝半島の屋慶名海峡。天然の航路として漁師たちに利用されてきた
15世紀初頭に建設された座喜味城跡。全長365mの城壁のアーチ門はクサビ石が施され、沖縄最古のものとされる。屏風状の局面が美しい
首里と並び称されるほどの繁栄を見せた勝連城跡。城跡からは海外貿易によってもたらされた青磁類や高麗瓦などが出土した
勝連城跡から中城湾港の新港地区を臨む。企業立地エリアだけではなく、緑地帯など、生活にうるおいを与えるエリアとして整備が進められている