『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて
早朝の勝浦港、水揚げされたマグロが無数に並び、仲買人や漁師たちの威勢のいい声が響き渡る。
セリが始まる時間帯は漁港全体にエネルギーが漲っている。
紀ノ松島で知られる和歌山県那智勝浦町の勝浦港は、県内外の漁船が寄港する日本有数の遠洋漁業基地だ。
美しい熊野の山々に抱かれたマグロの港、勝浦港を訪ねた。
(写真:那智勝浦町)
勝浦港
様々な海の表情に出会う黒潮海道のマグロの港
勝浦港は和歌山県那智勝浦町のほぼ中央に位置する県内一の漁獲量を誇る漁港だ。外海の景勝地、紀ノ松島へは、漁港区と隣接する観光桟橋から遊覧船が就航しており、観光の拠点としても名高い港である。海際まで山が迫り、入り組んだ海岸線に熊野灘の荒波が砕け散る豪壮な景観が人気を呼び、多くの観光客でにぎわっている。紀伊半島沖を流れる黒潮海道の真っ只中にありながら、港内は非常に波が穏やかで避難港に指定されている。
江戸時代までは小さな漁村に過ぎなかったが、明治18年に定期船が就航すると、大正期に入り周辺の新宮や三陸・九州からも漁船が寄港するようになり徐々に発展してきた。また湯量豊富な温泉が注目を集め、熊野詣の人々が旅の疲れを癒した湯垢離場としても活況を呈してきた。
勝浦といえば観光もさることながら、真っ先に思い浮かぶのがマグロのイメージではないだろうか。年間の水揚状況を見ると過去10年で最高の漁獲高を記録した平成5年の水揚量は23,658t、そのうち約9割がマグロで占められている。今や近畿では最大、国内でも有数の遠洋マグロ漁業基地である。
現在の勝浦港の西部には物揚岸壁、荷捌所、漁協の事務所棟など漁業関連の施設が立地しており、大型のマグロ漁船が何隻も係留されている。隣接する観光桟橋は、紀ノ松島を巡る遊覧船と、対岸のホテルの連絡船の発着場になっていた。その周辺には土産物店や案内所などが軒を連ね、観光バスが行き交う。決して大きくはないが、港内に観光と漁業の機能が、バランスよく配置されている。
勝浦は新鮮なマグロのみならず良質な温泉でも有名な港町だ。年間200万の観光客が訪れる
クジラやイルカを模したユニークな遊覧船が観光客の人気を集めている
港内は自然の地形に守られ波も穏やかだ。荒々しい黒潮から船を守る避難港に指定されている
港とは対照的に太平洋に面した王子浦には黒潮の大波が間断なく打ち寄せている