『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて
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心が通いあう「宝の島、奥尻」
「奥尻」という島名は古いアイヌ語の「イクシュン・シリ」が「イク(向こう)シリ(島)」に訛ったのが由来とされている。東西11km、南北27kmと細長く、周囲は84kmで、北海道では2番目に大きな島である。離島とはいえ大自然を堪能できる「宝の島」だ。
午前11時、奥尻港にフェリーの1便が接岸する。船を出迎えるのは、奥尻町のマスコット「うにまるくん」だ。愛嬌を振りまくその姿に、下船したお客さんの顔にも笑みがこぼれる。ひと段落した後、着ぐるみの中から現れたのは、笹木武蔵さん、66歳。建設関係の仕事から身を引き、今は悠々自適の毎日だ。「夏場のシーズンともなると子供たちがワンサカ降りてきて、船が着くたびに握手だ、記念撮影だと大騒ぎになる。この港も地震のときは近くの山が崩れ、下にあったホテルも埋まってそれは大変だったけど、今はこんなにきれいになった。島は大丈夫だ。観光のお客さんも戻ってきた。もともと美しい島なんだし」。
奥尻港から車で南に向かった。この道は島の海沿いをほぼ一周している。出発するとすぐ左手の海岸に見えてくるのが「鍋釣岩」。鍋の取っ手(つる)に形状が似ていることからこう呼ばれている。奥尻のシンボル的な岩だ。奥尻島ではいたるところでこうした奇岩に出会う。自然の造形とは思えない不思議な岩を見ながら20分ほど走ると島南端の青苗に至る。漁港に整備された「人工地盤」が町を護っている。その背後の高台には美しく整備された町並みが広がる。漁村というよりは郊外の住宅地といった佇まいだ。青苗岬の小高い丘の上では「時空翔」と名付けられたモニュメントが待っている。震災日の7月12日、毎年この日の夕陽は、御影石の慰霊碑の窪みに沈んでいくという。
岬から北へ向かう海岸線も奇岩の林立する絶景ポイントだ。奥尻港のちょうど西側になる神威脇漁港には島民の憩いの場があった。「神威脇温泉」、ここの浴槽から眺める水平線に沈む夕陽は例えようもなく美しい。
さらに北上すると道は緑に包まれた大自然の山々を抜けて島の北端、稲穂に出る。大小の丸石に覆われた海岸は「賽の河原」だ。海難犠牲者を慰霊する石積みの塔が、荘厳な雰囲気を醸し出している。
海、空、大地、太陽、奥尻島はまさしく「宝の島」といえるドラマチックな美しい島だった。
島の人々は震災について語る際、一様に顔を曇らせた。しかし話を締めくくる頃には誰もが同じような笑顔を取り戻している。「『夢の島・奥尻』は以前にも増して逞しく、そして美しく生まれ変わった」そんな声が笑顔から静かに伝わってきた。
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奥尻島のシンボルともいえる「鍋釣岩」。夜間は美しくライトアップされる
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北追岬公園のモニュメントは開拓民たちの望郷の念を伝えている
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フェリーふ頭で訪れる人を楽し気に迎えてくれる「うにまるくん」
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「うにまるくん」の正体は笹木武蔵さん。その笑顔から暖かい人柄が伝わってくる
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「ホヤ石の滝」では真夏でも清涼な空気が絶えない。森が深い奥尻は水も豊富だ
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南部の山あいには島とはいえ北海道らしい牧歌的な風景が広がる
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道南五大霊場のひとつ「賽の河原」の海岸には神秘的な雰囲気が漂う
写真/西山芳一
COLUMN
奥尻の漁業拠点である青苗漁港に「望海橋」という新しいランドマークが誕生した。災害に強い漁港づくりを目的とした青苗漁港修築事業によって建設された「人工地盤」だ。
市街地の道路から直接アプローチできるテラスのような広場が海に向かって広がっている。実はこのスペースが人工地盤の上部空間で、その下の空間が漁港施設用地になっている。普段は漁業関連の作業スペース(下部)や、散策や海の眺望が楽しめる親水空間(上部)として地域のシンボルになっている。
しかし災害時には一時避難場所、港内からの避難誘導路として機能するよう設計されている。高齢者、負傷者でも3分以内に人工地盤上へ避難できるよう5箇所の避難階段が設置された。縦32m、横146mの人工地盤は65本の鉄骨鉄筋コンクリート柱によって支えられている。作業スペースを広く確保するためにSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)が採用され、柱の間隔が広く取られている。施工面では作業効率を高めるためスラブ部材をプレキャスト化し、門型クレーンによって連続架設した。各々の柱から伸びた6本の梁が連続する美しいアーチ構造が印象的だ。
愛称の「望海橋」には、新しい世紀に展望を開き、大いなる海の恵みのなかで発展する島の未来に向けた思いが込められている。
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