『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて
リサイクルポートの課題と三河港の挑戦
「リサイクルポートはひとつの『事業』です。だからこそ『経営』という視点も不可欠だと考えています」と語るのは国土交通省中部地方整備局三河港湾事務所の長谷部芳太郎所長だ。循環型社会を牽引する港湾の整備も、自動車メーカーなど企業が主体となる以上なんらかの利益を還元する必要がある。そうした意識がリサイクルポートに対する取組みを真摯なものにしていく。しかしリサイクルポートが軌道に乗るまでにクリアしなければならない課題も少なくない。同事務所の服部千佳志企画調整課長は、この数年で自動車市場が激変していると言う。「この一年程で中古車の流通量が急変しているんです。年間500万台の中古車のうち、これまで100万台ほどだった車両の輸出が倍以上に急増しました」と話す。つまり、再加工の材料となる車両の絶対数が減っているということだ。背景にあるのはアジア諸国の経済発展だ。中古車の需要が急激に高まり、中国などへの輸出量が増加傾向にある。そこで、海外から再び中古車を輸入し再加工する構想がある。日本の優れたリサイクル技術をもってすれば、海外で再資源化しきれない車輌を日本で処理することは十分可能だ。自動車のリサイクルも国境を越えたグローバルな視野でとらえなければならない時代になっている。その際には新しく整備されたバースを最大限活かしたコンテナ輸送も有効活用できる。
リサイクルに対する市民意識も徐々に高まりつつある。「学校教育の課程でも環境に対する意識形成が重視されています。三河港内の施設や工場の見学会を開催したり、自動車のリサイクルを解説したシーンを交えた三河港の紹介ビデオを制作、配付することによって市民の理解も深まってきています」(長谷部所長)。さらに港湾の景観にも配慮する必要がある。必然的に多くなるスクラップの山は三河港の親水性を損なうことになりかねない。そこで、緑地やレクリエーションゾーンの整備も進められている。周辺地域の発展に寄与していこうとする企業も、市民が港と親しむ場や、機会の提供に積極的に取組んでいるという。
来年1月からは「自動車リサイクル法」が完全施行される。ユーザーは購入時に車のリサイクル費用を負担、メーカーや輸入業者には車の再資源化が義務付けられる。この制度によって全国に4700万台ある車のリサイクル率は重量ベースで95%に達するという試算もある。リサイクルポートはこうした制度の鍵をも握っている。自動車を軸とした港湾整備に挑む三河港に、日本の港の未来型を見ることができる。
7号岸壁付近には輸出される車輌が待機(神野西ふ頭)
7号岸壁の豊橋コンテナターミナル(神野西ふ頭)
中部地方整備局三河港湾事務所
長谷部芳太郎 所長
中部地方整備局三河港湾事務所企画調整課
服部千佳志 課長
親水施設や緑地の整備も積極的に進められている(御津地区)
マリンレジャースポットとして人気を集める海洋型複合施設「ラグーナ蒲郡」(大塚地区)
写真/西山芳一
COLUMN
三河湾の美しさを未来に伝えるシーブルー事業
三河湾は知多半島と渥美半島に囲まれた閉鎖性海域で、湾口部が狭いことから外海水との交換がしにくいという地理的な特性がある。そのため、背後地から流入する土砂や生活排水、産業排水などによる水質の悪化、赤潮の発生やヘドロの堆積が大きな問題となっていた。そこで、浚渫土砂を有効活用して海域の環境改善を目的とした「シーブルー事業(海域環境創造事業)」が展開された。活用されるのは航路浚渫の際に発生する土砂だ。
三河湾湾口部の中山水道航路は環境の保全、貴重な天然資源の保存、漁業との調整に配慮しつつ、船舶の安全な航行を確保するための工事を必要とする「開発保全航路」に指定されている。付近は浅瀬や暗礁が多く3万t級の大型船舶の航行が制限され、スムーズに通ることができない。このため航路部分を掘り下げる航路浚渫工事は三河湾において欠かせない整備事業だ。シーブルー事業ではこの浚渫工事で発生した良質な土砂を有効利用し、三河湾各地に干潟や浅場を造成する。また海底の有機泥土(ヘドロ)の上に覆うように覆砂することで有害物質の海水への溶出を抑止することも試みられている。造成した地区では以前に比べ多様な生物が生息するようになり、特に水質浄化能力が大きい二枚貝が多く確認されるようになった。海域環境が改善されたことによって潮干狩りや、海水浴も可能となり、三河湾の水辺はにぎわいを取り戻しつつある。中山水道航路整備事業は平成16年度で完了するが、シーブルー事業は継続され、平成17年度以降の新たな連携先を検討中である。
港湾整備で発生した浚渫土砂を水辺の環境創造に活用する。ここでもリサイクルの発想が活かされている。