『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて

『海紀行』人とまちを支える港を訪ねて
港、水辺で生まれる新たなエネルギー

 山を切り開き、川の奔流を克服しながら港勢を拡大して
きた秋田港だが、日本海特有の厳しい自然条件そのものを
変えることは叶わない。年間を通じて海から吹き込む風も
その一つだ。特に晩秋から冬期にかけては、西高東低の気
圧配置となるため強い北西の季節風が吹き続ける。秋田の
港、海岸線ではその「風」を新たなエネルギーとして活か
していこうとする試みが始まっている。自然の力=風を資
源として電気を創る風力発電事業だ。秋田県は太陽光や廃
棄物、バイオマス等を活用した新しい電力、エネルギーの
導入に積極的に取組んでいるが、その中でも風力発電は重
要な位置を占めているという。秋田県産業経済労働部資源
エネルギー課の立石亨主任はこう話す。「風力発電が県内
で始められたのは平成9年頃からです。歴史としては決し
て古くはないのですが、現在では全県で87基の施設が稼
動するまでになりました。」秋田県の風力発電は北海道、青森県に次ぐ規模に成長している。近年、急速に風力発電
施設(ウィンドファーム)が建設されるようになった要因
はどこにあるのだろう。立石主任はこう続ける。「それは
何といっても安定した風が吹いているということに尽きま
すが、加えて風車などの施設費が除々にではありあますが
安価になってきたことにより電力会社に売電することで事
業性が見えてきたことなどが急速な新規参入を促している
といえます」。特に沿岸部、港湾エリアは住宅地からも離
れており騒音等の影響も少なく、用地の確保といった点で
も有利である。
 海岸線を辿ってみた。秋田港から国道7号線を南下する
こと20分程で日本海に向かって回転する「秋田ウィンド
パワー研究所」の10基の風車が見えてくる。県内におけ
る風力発電の草分け的な施設だ。ここで産み出された電力
は全量東北電力に売電される。能代の海岸には県内最大規
模を誇る「能代風力発電所」の風車24基が整然と立並ぶ。
広大な施設の周辺には民家も少なく騒音等の心配も無さそ
うだ。年間の発電電力量は約3,400万kWhで、一般
家庭約9,500世帯分の電力消費量に匹敵するという。
 秋田港区内でも石油会社の敷地内に風車が設置されてい
る。石油の加工で必要となる電力の一端を自然エネルギー
によって賄おうとするものだ。巨大なブレードが回転する
その雄姿は、港のあらゆるポイントから確認することがで
き、水辺の風景に溶け込んでいる。
 風力発電はエネルギー開発における石油依存率を低減さ
せるとともに、地球温暖化などの環境問題解決の糸口にな
る。地域においても新しい産業や雇用の創出、経済の活性
化などに大きく貢献するものと期待されている。その反面
クリアしなければならないハードルも少なくない。風力発
電の課題について立石主任はこう説明してくれた。「風は
自然のエネルギーです。そのため風力による電力供給は電
圧にムラがあり送電施設に負荷がかかりやすく、設備的に
対応するのにも多少手間がかかるという側面もあります。
保守、管理など長期間に渡って安定した稼動を維持する努
力も必要です」。しかし、風力発電への取組みは始まった
ばかりだ。国家レベルでも実質的な新エネルギーの導入目
標を数値として掲げ、促進策となる法整備も整えられつつ
ある。「民間企業の施設に加えNPOの手による風車も登
場しました。秋田の海岸、港にはさらに新しい風車が稼動
する余地がまだまだ残されていると思います」(立石主任)
。港には新しい施設を建設するための真新しい資材が搬入
されていた。「風」を活かし新しいエネルギーを創造する
海辺のポテンシャルは非常に高い。

秋田県産業経済労働部 資源エネルギー課
立石 亨 主任

広大な飛行場跡地に整備された風車群(秋田ウィンドパワー研究所)

秋田港の石油加工施設内に設置された風車(大浜地区)

日本海に接する向浜地区は木材の集散拠点になっている